歯科コラム

失った歯の代わりにあごの骨に人工の歯根を埋め込む歯科用インプラントは、歯を失った人の生活の質を取り戻す助けとなってきました。この歯科用インプラント、1700年も前から存在していたことをご存知ですか。

実は、西暦2世紀~3世紀のヨーロッパ、西暦7世紀ごろの中南米でもあご骨にインプラントを埋め込む治療が行われていたことがわかっています。笑顔の美しさやしっかり噛める歯を取り戻したいという願いは、いつの時代も共通のようです。今回は、インプラントの初期から現在の治療技術に至るまでの歴史を、ご一緒にひも解いていきましょう。

初期のインプラントはこんな材料でできていた

初期のインプラントはこんな材料でできていた

ヨーロッパで西暦3世紀ごろのものとされる人骨の上あごに埋入されていたインプラントは、鉄でできたものでした。また、西暦7世紀ごろのものとされる中南米の人骨には、下あごに貝殻でできたインプラントが埋入されていました。

インプラントは鉄や貝殻から始まり、金やアルミニウムなどの金属、エメラルドやサファイヤなどの石、その他さまざまな材料が試されたものの、しっかり長期的に噛めるインプラントにはなり得ませんでした。そのため、ごく一部での試験的な治療にとどまり、広く普及することはなかったのです。


チタンが骨と結合するという事実の発見

1952年、とうとうインプラントに最適の材料が発見されます。スウェーデンのルンド大学で、ペル・イングヴァール・ブローネマルク教授が微小循環(血液の流れ)の観察実験を行っていました。実験のためにウサギの骨にチタン製の器具を埋め込んだところ、実験終了後に器具が骨とくっついて取り出せなくなったことに気付いたのが始まりです。

教授はこの現象をオッセオインテグレーションと名付け、研究を進めました。研究を進めるうちに、チタンは身体に害を及ぼしにくいこともわかりました。のちに、チタンが骨と結合するこの特性が歯科インプラント治療に応用されるようになりました。

このように、もともと歯科の分野とはかかわりのなかった学者の実験中に偶然発見された一つの事実が、歯科インプラント治療の歴史を大きく変えたのです。


人間への応用と臨床普及

チタン製の人工歯根について、安全性や耐久性を確認するための研究や実験が数多く行われた末、ついに1962年、オッセオインテグレーションを応用した歯科インプラント治療が本格的に人間に施されることとなりました。その時の治療では、チタンでできたスクリュー型のインプラント体が用いられました。

ブローネマルク教授がチタン製のインプラントを埋入した第一号患者の男性は、その人生を終えるまでの41年間、そのインプラントで問題なくしっかり噛むことができていたと伝えられています。

その後、1978年にアメリカで歯科インプラントのコンセンサス会議が開かれ、歯科インプラント治療のデータ収集、分析、評価基準の確立が行われました。さらに1982年のトロント会議で、歯科インプラント治療後15年の症例が紹介され、世界を驚かせました。これが歯科インプラント治療のターニングポイントとなり、以後驚異的なスピードで世界中の臨床現場に普及していくことになります。


技術の向上と目標の変化

技術の向上と目標の変化

1980年から2000年ごろにかけて、歯科インプラント治療の目標は「骨としっかり結合する」「しっかり噛めるようにする」というような安全性、耐久性に重点を置いた研究がなされ、その技術は確実に進歩してきました。

技術の進歩に伴い、歯科インプラント治療の適用範囲も広くなり、全顎・一歯・複数歯など、様々なパターンの歯の喪失に対応できるようになりました。また、治療時間の短縮と患者への負担の軽減に注意を向けたり、インプラントを埋め込むあご骨が薄かったりもろかったりした場合に、骨を足してインプラント治療ができるようにする骨造成の技術にも関心が寄せられるようになりました。

そして、2000年代中ごろから、見た目の美しさも併せて重視されるようになってきました。しっかり噛めて長持ちする、というだけではなく、天然歯と変わらない自然な見た目が追及されるようになったのです。その甲斐あって、現在使用されているインプラントの見た目は天然歯とほとんど変わりません。


現在の治療技術と今後の課題

歯科インプラント治療は広く普及し、決して珍しいものではなくなりました。ますます多くの歯科医院がインプラント治療を行うようになっていますし、身近な人がインプラント治療を受けたという話もよく耳にするようになりました。

ただ、多くの歯科医師がインプラント治療の分野に参入した結果、玉石混交となることは避けられず、失敗例や合併症の報告が増えているのが現状です。インプラントは簡単な治療ではないので、治療の際は慎重に歯科医を選ぶ必要があるという事実は頭に入れておく方がいいでしょう。

1700年も前、貝殻から始まった歯科インプラント治療の歴史ですが、チタンが骨と結合する事実が発見されて以来、この60余年の間にめざましい治療技術の進歩と普及を遂げました。研究や臨床に心血を注いだ先人への感謝とともに、賢い患者として正しい情報を集め、納得できる治療を選択する努力を惜しまないようにしたいものです。

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